もう、明日がないなら…
「え…?」

「あなたを武器持った相手から護るのは、あたししかいなかったでしょ? この男は利き腕が当てにならないし。あたしはこの人から結構な報酬をもらってるのよ。だから、言うことをちゃーんと聞いてあげただけ!」

「ま、そういうことさ」

 美沙は、雅臣と佳美の顔を交互に見つめていた。

 その時、風が通り過ぎた。少しだけ湿ったその風に、彼らは夏の到来を予感していた。

「あ、そうそう。あの屋敷、銀行に差し押さえられた後、取り壊されるそうよ。何処かのディベロッパーが買って、マンションを建てるみたい」

「…そうか」

「親の遺産が底をつき、借金がかさんでいたらしいから、屋敷が抵当に入ってたって言ったでしょ?」

 雅臣は、遠目で小さくうなずいていた。暖かな陽の光とは対照的に、その表情は哀愁を帯びていた。

「ま、元気そうだから良かったわ。じゃあね!」

 佳美はそう告げながら、手を振って彼らの元から去って行った。
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