もう、明日がないなら…
 荒れ果てたそのお墓に眠るのは、大好きだった祖父と両親だ。梅雨入り前のある晴れた空の下、美沙は無心で雑草を抜いていた。雅臣はその様子を後ろで立って眺めていた。

 実は祖父が父だった。そんな真実が新たに判っても、祖父は祖父で、本当の娘のように育ててくれたのは両親だった。自分は愛されていた。だから、今ここにいる。

 もし、復讐心のなかった雄哉と出会ったら、あのダイヤのような素晴らしい指輪をエンゲージリングとして、彼女に渡しただろうか?

「あぁ、そうだ。あの指輪…」

 不意に、美沙は墓石をこする手を止め、口を開いた。

「あの指輪、あなたのだったの?」

 美沙は、春日邸に向かう車の中で彼が口にした言葉を思い出していた。

「…そうだよ。あれは死んだ母の形見でね。病気で床に伏せっている時に、『私のことを忘れないで』と言いながら、渡してくれたものなんだ」

「…そうだったの」

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