もう、明日がないなら…
 そんな大事なものを、あの人は…

 美沙は作業の続き進めながら、青いため息が宙を散った。

「君に贈ろうと思っていたんだ」

 彼女の背中に、雅臣はそう告げた。するとピクリと美沙が反応していた。

「…特別なものだから」

 彼の言葉が、彼女の心にじんわりと浸透していく。心臓を打つ鼓動が早く、次第に胸が熱くなる。

「君にプロポーズしようと…」

 あの車の中で、彼が感情的に指輪のことを口走った時、ただのヤキモチではなかったことを美沙は理解した。どんなに大事なものかを知ってか知らずか、あの指輪を薄汚い復讐のために使った雄哉を許せなかったのだ。

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