もう、明日がないなら…
二 家族
「結婚、しようか」

 お互いの温もりを確かめ合うように抱き合った後、雄哉はポツリとつぶやいた。隣にいた美妃は、目をパチクリさせながら、彼の顔を覗き込むように見つめていた。

 薄暗がりの部屋には、ベッドサイドに置かれたアンティークのランプがぼんやりとした黄色い光で辺りを照らしていた。正直、こんな間近にいるというのに、美妃には雄哉の表情がはっきりと見えていなかった。

「…でも、私」

 彼女は視線を落とした。

「解ってる。この一年、四方八方尽くしたけど、何もわからなかった。不甲斐ない僕で申し訳ないと思ってる。だからって責任を取るとかじゃないんだ。君が僕のそばを離れて、遠くに行ってしまうようなことなんて、今更考えられないよ」

 彼はベッドから降りると、椅子の背に掛けておいた白いガウンを羽織った。そして、棚の引き出しから小さな箱を取り出すと、再びベッドに戻り、彼女を起こした。

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