もう、明日がないなら…

　両手にぎっしりと詰め込まれた袋を下げ、スーパーを出ようとゆっくりと歩き出す。袋の重みで下ばかり見ていた彼女の視界はもちろん狭かった。

　彼女がスーパーのガラス戸から外に出た次の瞬間だった。

　突然、空を切るような早さで右手首を掴まれたのだ。しかも、かなり強い力だったため、思わず美妃はその痛みに顔を歪めた。そして持っていた袋は当然、美妃の手から離れ、重力に従ってアスファルトに叩きつけられていた。

　手首を掴んでいたのは、全く知らない男だった。男は、パリっとした細身の紺色のスーツに、藤色のネクタイをしめていた。切れ長の目は、縁のない細いレンズの眼鏡越しに目一杯開いており、眉間に深い皺を寄せながら美妃の顔を
見つめていた。