もう、明日がないなら…
「おかえりなさい!」

「…た、ただいま」

 満面の笑みで迎え入れた美妃に対し、目の前に立っていた男は戸惑いを隠せなかった。彼女の顔を見て、固まっている。インターフォンのモニタを確認せずにドアを開けてしまった美妃も、思考回路がプツリと停止する。

 彼女の視線が空を泳いで数秒間、再び目の前の男の顔を見ると、「さっき、スーパーで…」と、やっとつぶやいてみせたのだった。

「な、なぜ先ほどのお嬢さんが、うちに…?」

「うち、ですって?」

 彼女が聞き返すと、男はうなずいた。

「ひょっとして、雄哉さんのお兄さん…?」

 驚き、つい開いた口に手を当てると、薬指に収まっている指輪がキラリと光る。それを見た男は、一瞬だけ目を見張ったが、すぐに笑顔を見せ、うなずいた。

「兄の雅臣です。中に入れていただいてもいいですか」

「あ、ごめんなさい。どうぞ」

 玄関ホールの脇にある棚から、スリッパを出し、雅臣を中に入れたちょうどその時だ。あの重たいドアが勢いよく開いたのだ。

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