もう、明日がないなら…
「どうぞ」

 リビングのテーブルは、重厚感のある分厚い木製のテーブルであった。そこに一人、長い足を組みながら数分ほど待っていると、白い湯気がほんわりとのぼり、大きなレモンの輪切りが入ったカップを雅臣の前にふ差し出された。すると、彼は目を一瞬だけ大きくして驚いていた。

「…なぜ、僕がレモンティーが好きだと?」

 カップを見つめながら彼は言う。美妃は、「あっ…」と小さく漏らしてから驚いている雅臣の顔とカップを交互に見た。

「…なんでかしら」

 その時、彼女の頭の中では、レモンティーのペットボトルを美味しそうに飲む雅臣の姿がポンと思い浮かんでいた。断片的ではあったが、ここ最近の記憶ではない。

「不思議な人だ」

 彼はそう言って、左手でカップの柄に指をかけると、そのまま口に運んだ。ひとくち、ひとくちとそのレモンティーが口に含まれていくたびに、彼の目尻が下がって行く。その様子を瞬きもせずに美妃は見つめていた。

< 24 / 128 >

この作品をシェア

pagetop