もう、明日がないなら…
だいぶ冷めてしまった紅茶をすすりながら、彼らは向かい合っていた。何となく重い空気に、居心地の悪さを感じていたが、美妃は黙って目の前の彼の動向に注目していた。目だけで部屋の中を見渡して見る。
いつもはちゃんと片付けられている部屋の中は、イライラを発散した形跡が残されたままだった。ハードカバーの分厚い本が散乱しているのだ。
「美妃…」
彼の絞り出すように出された声は小さく、今まで聞いたことのないほど、情けないものだった。
「兄貴には気をつけてくれ…」
「気を付けるって、何を…?」
思わず聞き返すと、彼はうなずいた。
「あの人は俺からすべてを取り上げる天才なんだ。君が心配だ…」
彼は、俯いた。
「他のすべてがなくなっても構わない。でも君を失うのは耐えられない…」
カップの柄を握っていないもう片方の手で彼女の手の甲に重ね、ぎゅっと握る。美妃は笑いながらそんな彼の手の上にさらに自分の手を優しく重ねた。
「私は大丈夫。私だって、雄哉さんがいなければ生きていけない。だから、私を信じて…?」
俯き、震えている雄哉に、美妃はまるで小さな子どもに言い聞かせているかのような口調でたしなめる。今はそうするしかできなかったが、なぜ彼がこれほどに兄を忌み嫌うのか、彼女には全く理解できなかった。
いつもはちゃんと片付けられている部屋の中は、イライラを発散した形跡が残されたままだった。ハードカバーの分厚い本が散乱しているのだ。
「美妃…」
彼の絞り出すように出された声は小さく、今まで聞いたことのないほど、情けないものだった。
「兄貴には気をつけてくれ…」
「気を付けるって、何を…?」
思わず聞き返すと、彼はうなずいた。
「あの人は俺からすべてを取り上げる天才なんだ。君が心配だ…」
彼は、俯いた。
「他のすべてがなくなっても構わない。でも君を失うのは耐えられない…」
カップの柄を握っていないもう片方の手で彼女の手の甲に重ね、ぎゅっと握る。美妃は笑いながらそんな彼の手の上にさらに自分の手を優しく重ねた。
「私は大丈夫。私だって、雄哉さんがいなければ生きていけない。だから、私を信じて…?」
俯き、震えている雄哉に、美妃はまるで小さな子どもに言い聞かせているかのような口調でたしなめる。今はそうするしかできなかったが、なぜ彼がこれほどに兄を忌み嫌うのか、彼女には全く理解できなかった。