もう、明日がないなら…
 雅臣は、自室に客を迎え入れていた。

 ぷっくりとした瑞々しい唇には真っ赤なルージュを引き、長い睫毛には、たっぷりとマスカラがぬられていた。そして、均等の取れた美しいボディラインには、ピタッと体に沿う黒い服をまとっている。客として通された女は、雅臣と向かい合って座っていた。

「で、彼女には言ったの?」

 タバコの煙を吐きながら、女は言った。

「言えるわけないだろ」

「何で? あいつが留守なら今がチャンスなんじゃないの?」

 女がそう言うと、彼は首を振った。

「彼女を見てると、理性が飛びそうになるんだ」

 さっきの出来事を思い出したのか、絞り出すように彼がそう言うと、女は声を立てて笑っていた。

「可愛い人ね。いつもクールなのに、あの子にはずいぶん甘えてたものね」

 女が意地悪くそう言うと、彼はジロリと女を睨んだ。しかし、女は動じない。もっと口角を上げて、ニヤニヤと笑っている。雅臣は小さく咳払いをして、女を睨むのをやめた。
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