もう、明日がないなら…
「待って!!」

 美妃は、夢中で叫んでいた。その反動で背筋がビクンと伸び、額には軽く汗をかいていた。目を強く見開いた時、初めて自分が泣いていることに気付いたのだった。

「嫌な夢でも見ちゃった?」

 首だけ後ろを向いて、佳美が訪ねると、美妃はうなずきながら「騒いでごめんなさい…」と、小さく頭を下げた。

「別に、謝らなくてもいいけどさ」

 笑いながら佳美は言った。美妃は肩をすくめた。

 まだ、車は走っていた。しかし、大通りからだいぶ外れ、住宅街へと入っていた。

「ところで、どこに向かっているんですか?」

 ハンカチで汗を拭いながら美妃は前の二人に尋ねた。しかし、佳美は「もう少しで着くわ」とだけしか言わず、具体的な場所を教えてはくれなかった。もったい付けたような彼らの行動に、美妃はいささか不満を感じていたが、黙っていた。

 代りに、窓の外の景色をぼーっと眺めてみる。坂道の多いこの道は、いちいち車中の人たちの身体を揺らしていた。

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