もう、明日がないなら…
 やがて坂を登り切り、高台へとやってきた彼らは、生い茂る木々の緑に癒されながらひときわ大きい区画の墓の前にたどり着いた。

 墓前に立った美妃は、石に刻まれた文字を目で追った。そして、ゆっくりと目を閉じた。

(春日…家)

 頭の中で何度も反芻する。

 ふとその時、彼女の体に稲妻が閃くような感覚を感じたのだ。

「春日… の祖父様のお墓」

 そうつぶやいた瞬間、美妃の両目からは大粒の涙が溢れ、膝が崩れ落ちたのだ。

 ろくに墓参りもされていないのか、所構わず生えている雑草は伸び放題伸びており、墓石は砂埃を被っていた。そんな無残な墓石を前にして、彼女の胸は故人の寂しさで張り裂けそうになっていた。

「春日美沙さん、つまりあなたのお祖父さんは、殺された。…覚えていますか」

「かすが… みさ…? 殺された…?」

 手の甲で涙を拭いながら、美妃は、振り返った。

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