もう、明日がないなら…
「薬を盛られたんですよ、犯人に。やっとここまで回復したんです。1年かかりました」

 右手を軽く結んだり開いたりするその動きが、イライラするほどぎごちなかった。美妃は立ち上がり、思わずその手を握りしめていた。

「犯人は、私の家族に手を掛けた人物と同一犯なのですか?」

 大きくて、長い雅臣の指を自分の手で包み込みなが、美妃は出来るだけ興奮する気持ちを抑えながら口にする。しかし、声は震えていた。

「えぇ。…おそらく、あなたが記憶を失ったきっかけも、そこにあると思います。あなたは、思い出したくない記憶を封印している」

「まさか、その犯人が雄哉さんとでも言うつもりですか? 動機は? 動機は何ですか?」

 彼の手を握り、その手を見つめながら美妃はまた涙を流していた。その涙は、ひとつ、ふたつと、甲に落ちていった。

「あなたは、犯人の顔を見ているかもしれない。彼があなたを手元に置いておく理由が僕にはそれしか考えられません」

「そんな、バカな…。だって殺そうと思えば、いつでも殺せたのですよ?」

 美妃は、この一年にあったことを思い出していた。彼女の頭の中で思い出される雄哉は、自分を慰め、励まし、いつも優しいお顏を浮かべている、そんな彼の姿ばかりだった。空っぽの自分に、献身的に溢れるくらいの愛情を注いでくれた雄哉が…?

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