もう、明日がないなら…
 彼は、そのまま美妃を抱きしめていた。もうすでに冷静ではいられくなっていた。やるせない表情を隠しきれない彼は、抱きしめる力が一層強くなっていった。

 彼の胸に抱かれている間、美妃の肩は震えていた。

 こんな感情的に抱きしめられたことがなかった。それでも、とても暖かくて
、懐かしい気がしてならなかった。しかし美妃はそんな気持ちを断ち切るかのように、彼から離れたのだ。

「ち、近くの駅でいいので、送ってくださいますか。私、行かなくちゃ…」

 雅臣と佳美に背を向けて、美妃は歩き出す。しかしすぐに思い付いたように立ち止まり、軽く振り向いた。風が吹き、彼女の長い髪がさらさらとなびく。

 その時に見せたのは、笑顔だった。それは、とても悲しく、とても切なく、儚い笑顔だった。
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