もう、明日がないなら…
 ところが、その気力はそんな長く続かなかった。意識とは正反対に、身体は悲鳴をあげていたのだ。乗り換えるため、駅のホームに入った電車から降りようと人の波に乗って動き出した時、にわかに辺りが暗くなった。すると途端に膝から崩れ落ちたのだ。当然後ろにいた人々がつまずきそうになり、騒ぎ出した。辺りは騒然としていたが、本人はまるで気付かず、眠るように気を失っていた。

 美妃が次に気付いたのは、白く清潔感のあるベッドの上だった。重いまぶたを開いて目覚めた時、頭痛はウソみたいに消えていることに気付く。すぐに今の状況を把握しようと辺りを見渡すが、疲労困憊な身体は鉄のように重く、起き上がるのがやっとであった。その時、ハッとして時計を探した。

 サイドボードの上に、古ぼけた小さい置き時計が目に入ると、目一杯手を伸ばした。

 手のひらに収まってしまうほどの小さな時計の文字盤を凝視する。時間は、午後六時を過ぎていた。最後に時計を見たのは、駅のホームだった。あの時は、確かお昼頃だったはずだ。すると、あれから5時間以上も眠っていたことになる。

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