もう、明日がないなら…
 医師を呼びに行った雅臣が、再び美妃の前に現れることはなかった。ひとりで医師の説明を受けたあと、寂しく夕飯を口にする。しかし食欲など湧くはずもなくほとんど残し、もぬけの殻の状態で過ごしていると、消灯時間を迎えていた。

 病室は、やがて闇に包まれた。その闇の空間には、月明かりがカーテンの開いた窓から薄く差し込んでいた。本当に静かな夜だった。

 昼間に眠ってしまったせいか、なかなか眠りにつくことのできない美妃は、鈍い銀色の光をまとう月を眺めていた。

 雄哉を信じたい。いや、信じなければならない。では、私は彼に何を確かめる?

 美妃が到着しないことを心配して、彼は必ず帰って来るだろう。向こうで朝一の便に乗ったとして、明日の夜に日本につくはずだ。

 美妃は、自分に家族がいた現実に驚いていた。この一年、いなくなった自分を誰も探してくれなかったことから、記憶をなくす前から自分は天涯孤独だっのだろうと思っていたのだ。

 その家族を、雄哉が皆殺しにした…?

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