もう、明日がないなら…
 彼らは腕を組んでいた。時折、顔を近づかせ、微笑みあっていた。それはまさしく、恋人同士の振る舞いだった。

 その直後だった。男の方が、急に体を傾かせ、地面に倒れてしまったのだ。女はその異変にすぐに気づき、助けを求めるために叫んでいた。

 彼女の悲鳴に気づき、続々と人集りができる。辺りはとても騒がしくなっていた。

 そこでフィルムが切れてしまったかのように、暗闇が美妃を襲っていた。

 気づけば、身体中に汗をじんわりとかいていた。そして、今の映像に放心していた。すると、またメールが届いたのだ。

『美しいバラは、いかがですか。この時期、このローズガーデンは美しい。あなたも知ってるはずだ』

 彼のメールを読み終えると、美妃はしゃがみ込んだ。強く打ち付けるその胸の鼓動に、耐えられなかったのだ。

< 62 / 128 >

この作品をシェア

pagetop