もう、明日がないなら…
 なぜ、あの人は倒れたの…?

 瀕死の重体のように描かれていたあの映像は、私の記憶…?

 胸が疼き、痛みが止まらなかった。胃液が逆流して、気持ちも悪い。すると、そんな彼女の肩を背後からをそっと抱いたのは、悲しげな笑みを浮かべた雅臣だった。

 彼は、黙って彼女をベンチに連れてゆき、座らせた。

「あなた…なの? このバラ園で倒れたの…」

「…昨日、言ったでしょう? 毒を盛られたって。風邪薬を飲んだつもりでした。しかし、それがいつの間にかすり替わっていて、一時間後に溶ける毒入り
のカプセルだったんです」

「そんな…」

 まさか、と言わんばかりに美妃はつぶやいた。しかし、記憶を辿ると、嘘ではないことは分かっていた。

「さて、と。」

 雅臣は、決意したかのように美妃と向き合うと、彼女の左手を手に取った。彼女はびっくりして手を引っ込めようとしたが、彼は動じなかった。

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