もう、明日がないなら…
「僕は、橘雄哉といいます。君は…?」

 彼女の顔を覗き込む。その視線はとても真っ直ぐで、見つめ合うのをためら
うくらい、強かった。

「…ごめんなさい」

 彼女は、申し訳なさそうに目を伏せた。

「…そうだよね。記憶喪失なんだから、当たり前だよ。でも、名前がないと不便だよね」

 彼は白い歯を見せてニコッと笑った。

「僕が決めても構わない?」

 彼女は目を丸くしながら、コクリとうなずいた。

「君の名は、"美しい妃"と書いて、『みき』だ。どう?」

 たった今、生まれ変わったかのような、新鮮な気持ちが彼女を包んでいた。得意げに笑いかける彼に、彼女もつい笑っていた。さっきまでの怯えたうさぎのようだったのが、嘘みたいだった。

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