もう、明日がないなら…
「…彼はそんなにあなたに優しかったですか」

 雅臣は真っ直ぐに姿勢を直してそう口にした。

「え?」

「彼と婚約したんですものね。あんなに大きなダイヤが付いた指輪をもらい、さぞ嬉しかったことでしょう」

 雅臣の発言に棘を感じ、美妃は戸惑い眉根を寄せていた。

「あの指輪は、僕があなたに…」

 彼はそう漏らしたが、途中で言葉を濁す。しかし、美妃は聞き逃してはいなかった。

「…何ですって?」

「いえ。何でもありません」

「雅臣さん!」

 美妃は助手席の背もたれを掴み、彼の言葉の続きを促したが、「今のあなたには関係のないことでした」という言葉を最後に、彼は口をつぐんでしまった。そして彼は、次の目的地まで何も言葉を発することはなかったのだ。



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