もう、明日がないなら…
「どうしたんだよ、キスなんて何度も…」

 尻餅をついてしまった彼は、苦笑を浮かべながらゆっくりと立ち上がったが、美妃は眉間に深い皺を寄せて、彼を見つめていた。

「私、知ってしまったのよ…、あなたが私の家族にしたことを」

「なんのことだい?」

「とぼけないで!!」

 鋭く切り裂くように響き渡る美妃の声は、この部屋の中でこだましていた。それでも、雄哉の表情は変わらず、優しい笑みさえも浮かべているのだ。

「私のこと、殺したかったのでしょう? 私は犯人が…、あなたが火を放った屋敷から出て行くところを見たから…」

「さっきから、何言ってるんだい? …まさか、雅臣兄さんに何が吹き込まれたんじゃないか?」

 ツカツカと彼女に歩み寄り、雄哉は美妃の両肩を掴んだ。その力に、思わず美妃は眉を歪めたが、雄哉は構わず続きの言葉を口にしていた。

「言ったじゃないか、兄さんには気を付けろと…!」

「やめて、雄哉さん…、痛い…!」

「あの人は俺からすべてを取り上げる天才なんだって、話したじゃないか…!」
 美妃の肩を掴むその手は震えていた。
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