もう、明日がないなら…
「私は、記憶を取り戻したいのよ…。あの人は、その手伝いをしてくれただけ。以前の私のことを知っているようだったから…」

「…そんなの嘘だ。あの人は君のことを…」

 雄哉は美妃から顔を背けると、悲痛な表情を浮かべながらそっと目を伏せたのだ。そんな彼を寂しそうに見つめながら美妃はその口を開いた。

「…さっきも言ったでしょう。私、知ってしまったのよ。あなたは私の祖父を殺し、屋敷に火を放った。そして、両親もその巻き添えになって亡くなった。あなたのお母様が亡くなった原因は、祖父との関係がお父様にバレたからなんでしょ? でも何故? 祖父が責任を取らなかったから? お母様が幸せになれなかったから、その敵を討ったつもりなの?」

 美妃は、目をじっとつむる雄哉に真っ直ぐな目で問いかけていた。なるべく感情的にならないよう、平常心を保ちながら…。すると、雄哉はゆっくりと目を開け、美妃の顔をじっと見つめた。その視線に彼女は背筋に寒気を感じていた。その視線の冷たさに、驚いていてしまうほどだった。まるで別人だったからだ。

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