もう、明日がないなら…
「あら、お目覚め?」

 急に聞き覚えのある声が耳を掠め、彼女は声のする方に視線を向けた。すると、少し開いていたドアの隙間に黒いブーツのつま先を突っ込み、足でそのドアを全開にしたのは、佳美だったのだ。

(なぜ、ここに…?!)

 驚いた顔のまま、美妃が固まっていると、佳美はクスリと妖しい笑みを浮かべている。

「その答え、聞きたい? 」

 佳美のその笑みを見つめたまま、美妃の眉根が真ん中に寄って行く。すると佳美は、今度は声に出して笑い出したのだ。

「…合図するまで出てくるなって言ったじゃないか。」

「あら、ごめんなさい。だって、退屈だったものだから」

「佳美さん、もしや…」

 二人の会話を聞いて、美妃の顔が徐々に紅潮していく。その様子を見た佳美はますますいたずらな笑顔を浮かべ、目を三日月のように細くしていた。

「そ。あたし、この人とも契約してたの。傭兵みたいなものよ。お金さえもらえば、どんなこともする。スパイだって、ね」

「じゃぁ、何度も撃たれそうになったのも、あなたが情報を流してたってこと?」

 美妃は、佳美を人差し指で差しながら聞き返す。その指が震えていたのは当然だった。
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