もう、明日がないなら…
 そんな頃だった。ある晩、五人組の新規の客の来店があった。たまたまフリーだった彼女が接客に回るようにママに言われると、彼女は何人かの女の子とそのテーブルに着いた。

 彼女は一番年長の男の横に座り、酒を注いだ。その時、その男の顔をちらりと見ると、自分にはない”男の世界”を感じることができたのだ。その自由な世界で生きている彼をやたらうらやましくなり、彼女はほろ酔いの男の話に耳を傾けていた。

 彼らは建設会社の社長とその部下達だった。大きな仕事が終わり、部下達を労う為に、社長である彼が部下を連れて飲みに六本木まで繰り出してきたようだ。そして適当に二件目としてこの店に入ってきたのだ。煌びやかなドレスに身を包んだ女達に囲まれ、部下の男達は意気揚々とその場の酒を楽しんでいた。そんな彼らの様子を落ち着いて楽しそうに眺めているのが、彼女の隣に座る男だったのだ。

 そんな男を横に、彼女はドキドキしていた。男達をもてなし、いい気分にさせるのがホステスの仕事のはずなのに、逆にもてなされているような錯覚に陥るのだ。それほどに彼の話に引き込まれていたのだ。

 彼の顔に刻まれている小さなしわは、自分の知らない世界で命がけで生きてきた証拠…。

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