もう、明日がないなら…
「春日さん、そうじゃないの、私、私ね…」

 告白したら、きっと楽になる。生きる理由を失いかけている彼女にとって、死ぬことも、きっと躊躇などなくなる。彼が彼女を救ってくれるはずないことくらい、すでに解っていた。彼も同じだ。疲れた体と心を癒しに女を使っているだけなのだ。そんな彼に、自分を押し付けるなんて、なんておこがましいのだろう…。そう考えた瞬間、彼女は笑っていた。

「花蓮ちゃん?」

 彼に名を呼ばれ、彼女は首を振った。

「たとえ明日死ぬことになっても、私、今すごく幸せなの。春日さん、ありがとう」

 彼女はそう言って、網で焼かれた肉を頬張ったのだ。そんな彼女をびっくりした顔をして彼は見ていた。

「死ぬなんて、簡単に言ってはいけないよ」

 箸を置き、彼はテーブルの上からグラスを取ろうとした彼女の手に自分の手を重ねたのだ。その手の暖かさに彼女は目を見張った。思わず、彼の顔に視線をやった。すると、彼は真剣な目で彼女を見つめていたのだ。

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