もう、明日がないなら…
「…最初に君に会ったとき、君は死にたがってるように見えた。それがとても
印象的で、気になって仕方なかった。だから私は君に会いに雪月花に通うようになったんだ。君が店にいると、安心した。…何故、そう思うようになったのだろうね」

 優しく笑いながら、彼はそう告白したのだ。彼女はただただびっくりして目を丸くしていた。そして、体が急に震え出したのだ。その震えが、胸の鼓動からだと気付くのに、数分…。うまく言葉が出ず、目には涙が溜まっていた。

「…春日さん、何言ってるの。奥さん、いるんでしょ? からかわないで」

「…信じられる訳ないよな、こんなおじさんのことなんか。老婆心、という事にしておくか」

 笑いながら彼女の手から自分の手をしまおうとした時、彼女がそれを拒否した。大きくてしわの寄った、その暖かい手のぬくもりを彼女は放したくなかったのだ。

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