もう、明日がないなら…
「…どうしたの」

 彼がそう声をかけるが、彼女はうつむき首を横に振った。

「君の本名は?」

「…花恵」

「きれいな名だね」

 彼女の手を握り返し、彼はそう口にした。

「…私、甘えてもいいの…?」

 涙はもう止まらなかった。嬉しさと、切なさと、もう死ぬ事を考えなくてもいい安心感が彼女を包んでいた。

「こんな私でよかったら、ね…」

 彼の優しい声が、体の芯まで染み渡ってくる…。彼女は小さな声ですすり泣いていた。

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