もう、明日がないなら…
 間違いなく、幸太郎の子だった。素直に嬉しかった。しかし、産めるはずもなかった。彼には家庭があり、大きな会社の社長だ。何もかも捨てて、自分と一緒になるはずはない。そして、未婚の母になる決断も出来なかった。自分には子どもを育てる余裕なんてあるはずもないのだ。

(おろすしか、ない、のかな…)

 彼女のお腹にある小さな命。

 産まれてきてはいけない命。

 産まれてきたら、不幸になる命—

 お腹に手を当て、優しくさする。元気な姿を見る事が出来ないその子に、初めて幸太郎との事が間違いだったと痛感していたのだ。

 夢だった。それはとても儚く、刹那的な…

しかし、いつか終わりが来ることは頭の中のどこかで解っていた。ただこんな形で終わるとは、思いもしていなかったのだが…。

(今夜、終わらせよう…)

 彼女は、幸太郎の私用のポケベルにダイヤルした。まもなく彼から電話が来るだろう。会うつもりはなかった。電話口でそっと別れを告げよう…。
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