オルゴールの鳴るおもちゃ箱
少女に手を引かれるまま螺旋階段を登り歩いて行けば、身長の2倍はある大きな黒い扉へと辿りついた。その大きな扉には、不釣り合いなほど下の位置についたドアノブ。少女はそこに手をかけ、たどたどしくその扉を開けた。
「ここはね、わたしがうたったりねたりするおへや。」
その部屋には小さな椅子がひとつと大きなベッドがひとつ、壁にはたくさんの本棚。もちろんその本棚には数え切れないくらいの本が詰まっていた。
「ほら、ベッドへあがって?」
いつの間にかベッドへと上がり込んでいた彼女の手には、小さなカップがふたつ、握られている。
彼女に急かされてベッドへ上がれば、抱きしめられながらベッドで眠った時の記憶が蘇ってきた。柔らかい毛布に包まれながら、2人で眠った夜は何回あっただろうか。綺麗な星空が窓から覗く日も、雷が鳴るような嵐の夜も、ちらちらと舞う雪の結晶が、窓硝子については溶けるのを眺めた日もあった。
思い出した幸せな過去に、少しだけ今を悲しく思った。
「はい、こうちゃよ?そろそろかなしいかおをするのはおしまい。」
「かなしいかお?」
「ええ、そうよ。かなしそうなかおよ。みているとこころがいたくなるの。」
そうは言われても、先ほどまでぬいぐるみであった自分には、表情の作り方などわからない。
「とりあえずこうちゃでもおのみになって?ね?わたし、あなたのおはなしをききたいのだから。かなしいかおではききたくないわ。」
「はなし、なにをはなすの?」
「あなたがぬいぐるみとして、そのおとこのこといっしょだったときのおもいで。」
「おもいで、おもいで、」
彼女は何も入っていないカップから一口、紅茶と名付けられた空気を飲み込むと、おいしいわ。と微笑んだ。僕も一口紅茶を飲めば、飲み込むと時に少しだけ、くちびるが温かい空気に触れた気がした。
「あなたがはじめてかれとであったときのこと。かれといっしょにでかけたばしょは?そこではなにをしたの?かれのすきなたべものはなにかしら?」
「はじめてあったのは、クリスマスのよる。こうえんによくあそびにいったよ。ブランコにのるんだ。」
「そう、そのちょうしよ。もっと、もっときかせて?」
彼女の望む通り、僕は思い出を遡りながら語り始める。
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