悪魔なのは…
5分くらい経った頃だろうか、一宮が席に戻ってきた。


「時間は貰えたよ、場所を変えよう」

「分かりました。何処に行くんですか?」

「新宿だ」

「…はい?」

「新宿だよ、新宿」


怪訝そうに聞き返され、一宮は場所を繰り返した。
だが、当然言葉が聞き取れなかったわけではない達輝の表情は怪訝なままであった。


「特殊班の契約っていうのは、新宿まで行かなければ出来ないんですか?」

「あぁ。契約書もそちらにあるしね」


喫茶店から出るのは勿論だと思っていたが、まさか新宿にまで足を伸ばすことになるとは思ってもみなかった。
どうりで、時間が足りないと一宮が言うわけだ。

達輝は再び溜め息を飲み込んだ。

どうやら、特殊班の内容を知れるのは、まだまだ先のようだ。
こんなことになるのならば、高木から無理にでも簡単な詳細を聞いておけば良かった。


会計をするために、二人は席を立った。

達輝が財布を取り出したが、それを一宮が制した。


「ここは、私の奢りだから」

「いえ、そんな悪いですから」

「いやいや、突然誘ったのはこちらだからね。私が出すのが礼儀だ」

「そんな気になさらなくても…」

「まぁまぁ、私が出したいんだ」

「そうですか?それではお言葉に甘えます。ごちそうさまでした」

「あぁ、どういたしまして」


出す、と一歩も引かない一宮に、達輝はペコリと頭を下げた。

目上の人が奢ると言っているのを、頑なに辞退することの方が失礼に当たる。
達輝は素直に奢られることにした。


二人はマスターに別れを告げ、次の目的地へと目指した。
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