悪魔なのは…
「ご歓談中申し訳ありませんが、私は失礼させて頂いても?」
「あぁ、済まないな。所長によろしく頼むよ」
「えぇ、かしこまりました。…三雲くんも、失礼するわ」
「あぁ。引き留めたようで、悪かったな」
何処かツンとした様子で踵を返し、足早に、ヒールの音を響かせながら去っていった。
「私もそろそろ行かねば。…達輝くん、今日の昼は予定あるかね?」
「昼、ですか?」
「あぁ、久々に君とゆっくり話したいのだが、どうかね?」
「えぇ、喜んで」
「では、また後程連絡をしよう」
時計を見ながら、そう答え、手早く連絡先の交換をした。
一宮 哲男警視。
父親と同期の警官であり、父親の事件を捜査した刑事でもある。
そのため、二人は何度か一緒に話したことがあった。
もっとも、達輝が大きくなるにつれ、その機会はどんどん無くなっていったが。
父親の事件のことは、まるで昨日のことのように覚えている。
忘れたくても忘れられない。
犯人が捕まらなかったのだから…。
掌に痛みを感じ、そこに視線を落とせば、爪の跡がくっきりと浮かんでいた。
どうやら無意識の内に、掌に爪を食い込ませていたようだ。
達輝はそんな自身にひっそりと苦笑を漏らして、ゆっくりと頭を左右に振った。
今は先ず、目先の仕事を終わらせねばならない。
達輝は、何かを振り払うかのように、目の前の書類に取り掛かった。