悪魔なのは…
時計台に着くと、既に一宮が来ていた。
仕立ての良さそうなグレーのスーツに身を包んでおり、片手を上げたその手首には高級そうな時計があった。

昔見知っていた頃よりも、大分羽振りが良さそうだ。


「すみません、お待たせしてしまって」

「いや、私が早く来すぎただけさ。さぁ、行こうか」


二人連れ添って歩き始めた。


時計台の回りには、同じようにスーツ姿の人がたくさんいた。
昼食時だからだろう、時計台の近くにあるコンビニや、牛丼屋に向かって行く人が多かった。
路地に入れば、ワンコインで食べられる定食屋があり、そこは既に行列が出来ていた。

やはり、不景気の煽りだろうか。

安いお店に並ぶ人の方が多く、各店も安さを強調したのぼりを高く掲げていた。


少し歩いたところに、レンガ風の建物があった。店の看板には、ブラウンと書いてあり、ここが目的地であることが分かった。


「ここだよ。この喫茶店には、君の父親とも何回か来たことがあるんだ」

「父さんと、ですか…」

「あぁ、そうだ。さぁ、入ろう」


カランカランと音を立てて、扉を開けると、柔和そうな顔立ちのお年寄りが出てきた。


「おや、一宮さんじゃないですか。久し振りですね」

「マスターも元気そうで」

「そちらの若い方はお初ですな」

「あぁ、マスターいつものを二人前頼むよ」

「かしこまりました」


そう慣れた様子で会話をすると、奥の席に腰掛けた。
壁に囲まれていて、他の席とは少し隔離されているかのようだ。


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