悪魔なのは…
『あんた言ったじゃないか!犯人捕まえるって、そう言ったじゃねぇか!なのに…なのにッ!何でだよ!何でッ…!』
瞼を閉じれば、浮かんでくる。
目の前の彼が、もっと幼い顔立ちだった頃の事だ。父親を殺害した犯人を処罰することが叶わなかった日に、一宮は三雲家へと出向いた。
そこで、一連の報告をしていた時だった。
達輝の悲痛な叫び声は、今も鮮明な記憶として、残っている。
達輝の母親が泣き崩れる姿も、絶望と憎しみの渦の中で…必死に堪えてる達輝の姿も…全て、脳裏に焼き付いている。
…どうして、忘れる事が出来ると言うのか。
いや、忘れる事など許されるはずがない。
警察という組織の力不足が原因なのだから…。
「…達輝くんは、今でも犯罪者が憎いかい?」
「それはそうでしょう。犯罪者…とりわけ、殺人者は許せない。人の命を奪っておきながら、何年かの刑務所暮らしでまた元の生活に戻ってしまう。まして、罪に問われないことすらあるだなんて、そんなの馬鹿げてますよ。…違いますか?」
一宮の話の意図が全く読めない。
まるで、何か本題に入る前に、試されてるかのような、そんな錯覚に陥った。
一宮は少し思案するかのように、天を仰いだ。
そして、真剣な眼差しを向けた。
「…そのためなら、悪魔に魂を売っても構わないかね?」
「……はい?」
「悪魔に魂を売ってでも、犯罪者を処罰したいかね?」
突然問われた言葉に、達輝は面食らった。
まさか、そんなことを聞かれるとは思ってもみなかった。