悪魔なのは…

「悪魔、だなんて…非現実的なことを言いますね。一宮さんって、そういうの信じるタイプだったんですか?」

「ははは。非現実的か。確かにその通りだ」


一宮は笑ってから、コーヒーを一口飲んだ。


「だがね、私は刑事として現場にいた時にはよく思ったものだよ。悪魔に魂を売っても構わない、ってね」

「…犯罪者を捕まえるために、ですか?」

「いや、違う」

「違う?」

「処罰するために、だ」

「…処罰、ですか…」

「そうさ。君も経験してるから分かるだろう?犯罪者を捕まえるだけじゃ意味なんてない。処罰されなければね、何の意味もないのさ。なのに、どんなにそいつが犯人だと確信していたとしても、罪に問われないやつもいる。無罪放免になるんだ…納得なんて出来るわけがない。許せるわけがない」


一宮の瞳が、段々と冷たい光を帯びてきた。
けれど、それは、達輝自身ではなく、達輝よりも遥かに遠くへと向けられたものだった。

自分に向いてないとは分かりつつも、その冷たい視線に、達輝は無意識にゴクリと唾を飲み込んだ。


「…それは、確かにそうだと思います。特に、父親を殺した犯人が無罪放免になった時には…世界すら呪ったものです」


あの時の悔しさ、無念さは今でも忘れられない。

警察も、裁判官も、世間も何もかも、犯人だけじゃなく、全てを呪い、恨んだ。

絶対的な正義などありはしないと、痛感させられた。


達輝は自嘲した笑みを浮かべた。
< 9 / 27 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop