悪魔なのは…
「悪魔、だなんて…非現実的なことを言いますね。一宮さんって、そういうの信じるタイプだったんですか?」
「ははは。非現実的か。確かにその通りだ」
一宮は笑ってから、コーヒーを一口飲んだ。
「だがね、私は刑事として現場にいた時にはよく思ったものだよ。悪魔に魂を売っても構わない、ってね」
「…犯罪者を捕まえるために、ですか?」
「いや、違う」
「違う?」
「処罰するために、だ」
「…処罰、ですか…」
「そうさ。君も経験してるから分かるだろう?犯罪者を捕まえるだけじゃ意味なんてない。処罰されなければね、何の意味もないのさ。なのに、どんなにそいつが犯人だと確信していたとしても、罪に問われないやつもいる。無罪放免になるんだ…納得なんて出来るわけがない。許せるわけがない」
一宮の瞳が、段々と冷たい光を帯びてきた。
けれど、それは、達輝自身ではなく、達輝よりも遥かに遠くへと向けられたものだった。
自分に向いてないとは分かりつつも、その冷たい視線に、達輝は無意識にゴクリと唾を飲み込んだ。
「…それは、確かにそうだと思います。特に、父親を殺した犯人が無罪放免になった時には…世界すら呪ったものです」
あの時の悔しさ、無念さは今でも忘れられない。
警察も、裁判官も、世間も何もかも、犯人だけじゃなく、全てを呪い、恨んだ。
絶対的な正義などありはしないと、痛感させられた。
達輝は自嘲した笑みを浮かべた。