君想歌
腕を組んだ吉田は畳から、
ゆるりと目線を桂へと向けた。

惜し気も無く殺気を向けられて
いるのに桂は動じない。


「桂さんと会う気なんて、
微塵も無いんだけど」



地を這うような低い声で
不満を言った吉田は次の瞬間、
桂の隣へと移動していた。



カランっと乾いた音をたてて
畳に転がった刀の鞘。


中に収められていた剣身は
桂の首筋へと当てられている。


「吉田さっ……!?」


悠は発そうとした言葉を
飲み込んだ。

吉田の目は“あの時”を
思い出しているようだったから。


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