君想歌
誤魔化すように吐いた言葉に
目を合わせるなんて出来ない。

「別に何でもないよ。
疲れてるだけだから」


「そ」


よいしょと膝の上に乗せられ
和泉を覗き込む体勢をしている
栄太郎の髪が前へと流れる。


さらさらの髪を指で遊んで
いれば不意に栄太郎の薬指が
唇に触れた。


「ん?」

「動かないで」


言葉の通りに身体を固めれば
唇を薬指が滑る。


片手で器用に髪紐を解くと
右側に髪を結い直される。


「うん。
やっぱり見立て間違いじゃ
なかった」


満足したように言った吉田は
和泉の顔を見てクスリと笑う。


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