君想歌
鏡なんて女の子らしい物なんて
持っていないから刀の剣身で
確かめている和泉に栄太郎は
苦笑している。


「なっ!?」


薄紅色に彩られた唇と
緩く横で結われた髪。


誰っすか……。


凄い女の子、ってな感じの
人が映っているんですけど。


「はい。これあげる」


栄太郎が膝に置かれた右手を
取りその上に小さな貝殻を置く。


正確に言えば紅だ。


貝殻には細かく彩飾がしてあり
一目見ただけで値が張ると
分かってしまう。


「可愛いよ」


少しだけ首を傾げて言う
栄太郎は和泉の唇を軽く
押さえてみせた。


「和泉の前だけだからね?
こんなこと言うの」


赤より少し薄い色の紅。


よく和泉に合っている色。


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