君想歌
それは和泉とて同じなわけで。

見慣れているはずの吉田の姿が
外に出ると違って見える事に
戸惑っていた。


考える程に自分の中の気持ちが
栄太郎にどれだけ傾いているか
分かってしまう。


桜から膝の上へ置いた手に
目線を落とす。


腰に回った手が吉田の方へと
引き寄せられ胸に顔が当たる。

着物越しに伝わる吉田の鼓動に
上を見上げる。


すると見事にばちっと視線が
交わる。


「お…俺だって……」

和泉がいつもと違って
女の子らしいし。

色っぽいし。


恥ずかしいのか消えそうな声で
呟いた吉田も緊張していると
感じて肩の力が抜けた。


「宿、行こうか。
そこから桜も見えるから」

吉田は誤魔化すように話題を
反らして和泉の手を引き
立ち上がった。


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