君想歌
夕餉の時刻。

隣の沖田は箸を持ったまま、
ぽけ〜っとしている。

何があった?

毎回、さっさとご飯を食べて
オヤツ時間に突入し皆の食欲を
一気に削ぐ沖田のはずが。


一つも箸が動いてない。


「総司?」

「……はい!」

大変だ。
一呼吸返事が遅れている。

「甘味の食べ過ぎ?
箸が動いてないけど。
食べないなら肉じゃが…欲しい」


箸で沖田の肉じゃがの入った
小鉢をさす。

和泉の大好物の肉じゃが。

それが今日の夕餉には
出てきている。


「って僕が答える前に
食べちゃうんですね。
まあ良いです。
それより髪紐変えたんですか?」

朝とは違う色の髪紐に
沖田は目敏く気が付いた。

和泉は確か藍や白の髪紐しか
つけて居なかったはず。

「んふ。買ってもらった」

肉じゃがを口に入れると
嬉しそうに笑みを浮かべる。

『恋仲にですか?』

なんて嫉妬めいた言葉が
口に出かける。


薄水色の髪紐。
たったそれだけの変化。

それだけで改めて和泉が
女だと認識してしまう。


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