君想歌
「姉ちゃん、
そのまま行ったら柱当たるで」

ふっと上から上半身を
現した人物に思わず足を止める。


大坂生まれ、大坂育ちの
彼は山崎丞。

組内では監察方という隊に
所属している。

器用に足だけで天井から
ぶら下がっている彼だが
和泉との距離はほぼ無いに
等しい。


「丞くんに当たると思うんだけど」

微塵も危険を感じていない
言い方に、

「あぁっ。もうっ!!」

茶色の後ろで結んだ髪を揺らし
勢いをつけて天井裏へ戻る。

「あ」

あと三歩ばかり歩いていたら
確実に柱と、こんにちは、
していた。


「……土方副長に何や
言われたんちゃうんか」

天井裏と廊下で話す図は異様。
しかし隊士が風呂に入る
刻限だから問題ない。

そして誰も廊下を通ることが
無いのであえて動かない。

外に足を投げ出し和泉は
空を見上げる。

「別に。
ただ思い出しただけだよ」

嫌な二つの思い出を。


両親は長州の奴らに殺された。
でも一番に礼を言いたいのは、自分を拾ってくれた
沖田では無く。


他の人なんだ。



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