君想歌
*吉田稔麿*

長州藩邸の端の方にある
自室に戻る。

行灯に火を灯そうとするが
手を止めた。

暗いはずの室内は障子を通し
差し込む淡い月光でうっすら
明るい。

音をたてず障子を開くと
月を見上げた。

どうしてだろうね。

キミが見てる気がしたからって
言ったら笑うかな?


しばらく戸に背を預けて
月を見上げていると、
ふっと影が目の前に落ちた。


「桂さん、何か用事?」

「いいえ。違います」


視線を一度も送っていないが、
桂さんがどんな表情をしてるか
声からして簡単に想像が
ついちゃうんだけど。


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