君想歌
誰も居ない道場で和泉は一人
稽古に励む。

扉を全開にしても籠る暑さ。


少しでも集中が切れれば
投げ出しそうになる。

邪魔な袖は襷をかけて止め。

高い位置で結い上げた髪は
動く度に揺れた。


どこも動きに狂った箇所は
見受けられない。

そればかりか速さは格段に
増しているはず。

あとは。

刀が握れるように身体が
追い付くだけだ。


焦らずにすれば大丈夫。



「和泉。
この時間に稽古をするなど
暑気あたりで倒れるぞ」


入口から飛んだ声に和泉は
腕から力を抜いた。


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