オレンジ色
「この辺に住んでるの?」
聞かれて。
「M町の方。」
素直に答えたら。
「そっか。俺はS市だけど、道挟んでM町なんだ。」
向こうの情報もくれた。
だから俺も聞いてみる。
「私立ってどんな感じなんだ?」
聞いたら。
「快適だけど、温度差がなさすぎて夏場とか変な感じ。たまに寒いし。」
自慢された気がした。
たいして長続きしない会話を俺たちは交わした。
話しかけて、話しかけられて。どう考えても場をつないでるようにしか思えないような、そんな会話。でも、会話の内容は学校のこととか生活とかだった。
間違っても何度か本屋で会った話なんか、出なかった。
それは俺がどこかで期待していたことを少し裏切られたようなそんな気分にさせた。
たまたま会った、偶然本を拾ったあの日。あれは俺にとっては特別な日だった。
全然知らない人間と知り合う、とても重要な日だったのに。向こうはそうは思っていない。ただの生活の一場面として吸収されてしまってるのが、悲しい。