オレンジ色
「それじゃ、うちこっちだから。」

 うちに限りなく近い交差点でそう切り出された。

「ここからどのぐらいかかるんだ?」

「10分ぐらいかな。」

 そんな近い所に住んでいたのに全然知らなかったのは、町と市の境界で小学校も中学校も同じじゃなかったからなんだろうな。

「シンの家はどのへんなの。」

 聞かれて、指さした。

「あの、オレンジ色の屋根の家。」

 そこはここからだと屋根しか見えないけれど、それでも距離はかなり近い。

ここの交差点から、2回曲がったらもう家の前に出られる。

「こんなに近い所に住んでたのに会わなかったのが不思議だな。」

 そう言ったのは、祐也だったのか。


 俺の心だったのか。



 手を振って交差点を左に行った祐也に、心の中で手を振った。

あいつに弱いとこは見せたくないんだ。なぜだかわからないけど、負けたくない。

 だから手は振らない。

 祐也の背中に背を向けて、俺は右へ歩きだした。

 背中合わせにだんだん広がって行く距離。


 祐也とはこのぐらいの距離でいい。これ以上近くもなく遠くもない距離で。

 友達とも知り合いとも言えないこの距離が、一番ちょうどいいんだ。

 心のどこかでそう言い聞かせる自分がいた。
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