オレンジ色
「じゃあな、シン。帰ったらちょっと電話するなー」

「え?何かあるのか?」

「今日の古典の宿題教えてくれー。じゃな。」

 いつも通りの帰り道。商店街を出たところでカズはそう言い、細い路地に入っていった。

 カズの家はここから10分ぐらいだ。

俺がどう頑張ってもカズの方が先に家に着く。電話をするって言ってたし、なるべく早く家に帰ろうと、少し急ぎ足で歩き出した。


 今日の古典の宿題は、明日の授業で一人づつ当てて答えさせられる宿題だから、やってないとヤバイ。俺も一人じゃ出来るか不安だったからとても助かる。

 カズより俺のが勉強出来るって言ったって、ほとんど変わらないようなものだ。

こういう時、友達っていいなって思う。



「…あれ?」


 住宅街に入ったあたりで、ふと足を止めた。

 前方、10メートルぐらいのところに、知ってる顔を見つけた。

「隣は…彼女…か?」

 女と二人で歩いてやがる。俺の存在にはまったく気付かない様子のまま。

 俺は反射的に、電柱に隠れた。

何で隠れたのか自分でもよくわからなかったけど、隠れなきゃいけない気がした。

ここで俺のこと見つけたら、どうせ自慢してくるに決まってる。おぼっちゃま学校の奴のやることなんて、所詮そんなものだ。

 会話はよく聞き取れない。でも、彼女の声はとても澄んでいるような、綺麗な声。

こういうのを美男美女カップルとか言うんだな、なんて。そんなことを考えながら、電柱や壁に隠れながら尾行した。
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