オレンジ色
「昨日、電話したのにお前まだ帰ってないとか言われてさー。どこ行ってたんだよ?」


 絶対に来ると思っていたこの質問の答えは、登校中に無理矢理考えて来た。

「学校に忘れ物したの思い出して、一回戻ったんだよ。悪かったな。」

「忘れ物って?」

「古語辞典。これなかったら話にならないと思って。」

 ここまで緻密に計算して答えていると、どこかでバレそうな気もしてくるけど。


きっとカズならわかってくれると思う。言いたくないことを隠してるって気付いても、カズならそれ以上は追求しないと思う。

 それが、カズって人間だと、俺は知っている。

「そうだったのか。でも、帰ったら電話してくれてもよかったんじゃね? おかげで俺必死こいてやったけど全然わかんなかったよー」

「ごめん、家ん中で色々あってさ。あ、じゃ、今ちょっと答え合わせしようぜ。」

 そう切り出した俺の言葉に、カズはようやく笑って古典のノートを引っ張り出した。


 ごめん、カズ。


 いつか誰かが『恋をしたら嘘つきになる』なんて言ってたっけ。

 俺は恋とは違うけど、要するにそういう状況になってしまっているのかもしれない。


 最近、最良の嘘を考える時間が多くなった。


 古典のノートを見つめながら、もう一つ思い出した。

 『恋をしたら、泣き虫になる』

 昨日流れそうになっていた涙も、そういう状況ってことだったんだろうか。
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