オレンジ色
「・・・ぁ。」


 下校中。なんとなく本屋に立ち寄っていつだかわからない日のことを思い出した。

 いつだったか、この本屋から出たところで買ったばかりの本を落とす変な男に出会った。本を拾って走って届けると、簡単にお礼を言って去っていった。

 制服からして、E高のヤツなんだろう。いいとこのおぼっちゃんだ。

俺より10cmぐらい背が高くて。夕焼けに照らされて紫っぽく光ってた髪で。

 俺とタメか上か。

コンビニが世界一似合わなそうな風貌で、あれはキザな感じで女の子がきゃーきゃー言ってそうな、そんな男だったっけ。

 ちょっと伸ばした髪が、それでも優しそうな人間に見せてて。

ただ、なんとなく、綺麗だった。

だから、心のどっかでもっかい会ってみたいなって思ってた。

「・・・あれ?あ…この間は、ありがとうございました。」

 凝視してた俺の視線に気付いて、そう声をかけてきたその人。

いつだったか覚えてなかったけど、この間ってことは結構近日だったんだろうか。それとも言葉のあやでそう言っているだけだろうか。

「あ・・・いえ・・・」

 なんとなく綺麗で、また凝視した。

「・・・あの・・・俺の顔に何かついてますか・・・?」

「別に。なんとなく見てただけです。それじゃ。」

 返答も待たずに振り返って本屋を出て。岐路に戻って。空を見上げた。


 凝視しすぎたことを謝るの、忘れた。
< 3 / 87 >

この作品をシェア

pagetop