オレンジ色
 人の波をすり抜けて、得に何を話すでもなく、駅に向かって。

少しづつ、祐也に気付かれないように呼吸を整えて、冷静に戻った時に、思い出した。



 昼間、「進んで食べたいとは思わない」って言ったのは、全然間違っているというほどの嘘でもなかった。甘いものをずっと食べてるとイヤになってくるのは事実。

そんなことを今頃思い出しても、祐也に言う気にはなれなくて。

 言ってしまったら、一緒にいられなくなるって、そう思って、我慢した。



 恋って、我慢すること…?



「あぁ、やっぱり少し並んでいるみたいだね。どうしよう。」

 駅前のクレープ屋の評判は、もうこのあたり一帯に広がっているようで、色んな制服の学生やら主婦やらが、店の中にいるのが見えた。

 どうしようと言いながら、俺の方を見た祐也に返す言葉は一つしかなかった。

「いいよ、待ってようよ。」

 それだけ、一緒にいられるっていうこと。

 それを俺が拒否する理由なんか、どこにもない。

「そうだね、それじゃ、並ぼうか。」

 祐也は待つことに問題はなかったのだろうか。


祐也の意見を先に聞かずに決めてしまったことが、俺をどこか忍びない気分にさせた。
< 33 / 87 >

この作品をシェア

pagetop