オレンジ色
「どうして?」


 その言葉が返って来て、ようやく自分の言った言葉の意味に気が付く。

 別れて欲しいって思ってたはずなのに、口から出た言葉。

でも、気付いた時にはもう遅くて、それを取り消す方法を、俺は知らなかった。

「なんとなく。」

 ごまかそうとしても、口元が震えた。

「変なの。」

 それだけ言って祐也は小さくなったバナナのクレープにかぶりついた。

 俺は、あと一口、手に残ったクレープを、口に運べないまま、何もないトレイを見ていた。

手が震えて、体が震えて、どうにかそれを止めようとしてるのに、止まらない。

「シン?どうかした?」

 気付かれまいとして、あわててクレープを口に運んだけど、鼻先にイチゴの香りが届いたあたりで、変な気持ち悪さを感じて、またクレープを下げた。


何してるんだろう、俺は。


「シン?」

 俺の顔をのぞき込むように、不思議そうに俺を見る祐也の視線が、苦しい。

 息が詰まる。

 でも、これを食べないと、席を立てない。

仕方なく微かに鼻の息を止めながら、最後の一口を口に押し込んで、飲み込んだ。

「俺、何かまずいこと、言った…かな?」

 独り言のように祐也がつぶやいたセリフに答えなくていいように、まだクレープが口に入ってるように見せようと、口をもごもごさせた。


 俺はずるい。卑怯だ。

 祐也に会いたいって思ってたはずなのに、会ったら逃げることばっかり考えてる。



「もう19時じゃん。帰ろうぜ。」


 そう切り出したのは、やっぱり、俺だった。
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