オレンジ色
「本屋?」


 商店街の入り口まで来て、聞いた。

噴水の公園からここまで、結構な時間があったはずなのに、俺たちはほとんどしゃべらなかった。たまに祐也が話しかけてきて俺が答えて。質問返して、祐也が答えて。

 何度も途切れる会話が悲しいはずなのに、話せたことのうれしさの方が大きかった。

「うん。」

「お前、本屋好きだな。」

 当たり障りのない言葉を選んでしゃべって。

「本に囲まれてると落ち着くんだ。」

 祐也も当たり障りのないことを言う。

 でもやっぱり俺が意識してることにも気付いて欲しくて。

「じゃ俺も行く。」

 そんな言葉をかけたって、友達付き合いと何も変わらないのに。

「シンは普段、どんな本読むの?漫画?」

「バカにするな。」



 悔しかった。



 本屋に入って、難しい本の並ぶ棚まで一直線に歩いていった祐也を追いかけて、しばらく一緒に本を眺めてたけど、やっぱり俺には何だかさっぱりわからない本ばっかりだった。

“これおもしろいんだ”とか、あらすじを説明してくれたりもしたけど、それのどのへんがおもしろいのかが全然伝わって来ない。


 だから、祐也を見た。


難しい本を見てるより祐也を見てる方が楽しい。どれを買おうか悩んでいるのか、欲しい本が見つからないのか、わからないけど。悩む時にほっぺたに人差し指を当てるのはクセなんだろうか。

 ほら、また。

真似して俺もほっぺたに人差し指を当ててみた。確かに悩む時の姿勢な気がする。

そのままチラっと祐也を横目で見たら、俺の視線に気付いた祐也と目が合った。

「え、あ…」

 慌てて手を下げたのは祐也の方だった。

「クセ?」

「…みたいだね。気付かなかった。」

 祐也の知らない祐也を見つけて、胸がわくわくしてくる。
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