オレンジ色
 結局何も買わないで店を出た時には、もうオレンジの空はなくなっていて、代わりに星の見えない真っ暗な空が広がっていた。


「ごめん、暗くなっちゃったね。」


 悪気のなさそうな“ごめん”が、俺と祐也の距離を縮めてくれたみたいでちょっと嬉しい。

 それは他人に言う“ごめん”じゃなくて、親しい人に言う“ごめん”。

「別に平気。勝手に付いてったの俺だし。」

 ぶっきらぼうに答えた俺に少し笑いながら、祐也が。

「それじゃ、帰ろっか。」

 そう言って歩き出して、俺もそれに付いていった。
 その瞬間。

「あれ…?」

 ポツリポツリ。雨だ。

「雨降ってきた、ね。さっきまで晴れてたのに。」


 これは…


「夕立だ。どっか、雨宿り…」

 早くどこか行かないとすぐに大降りになる雨。思わず祐也の手を取って、商店街の一番端にある薬屋の軒下に入った。

もう使われていない薬屋のシャッターの前で乱れた息を整えていると、大きな音を立てて降り出した雨に驚いて、顔を上げた。


「うわぁ…本当に夕立だ。どうしてわかったの?」

「雨の粒、大きかったから。」

「大きいと夕立なの?」

「夕立とかじゃなくて、大降りになる雨は雨粒が大きい。」

 答えた俺に、笑顔で返事をした祐也が、俺の頭に手を乗せた。



「ちょっと濡れたね。」

 そのまま水を払うように頭を撫でられて、俺もされるがままになってた。

「それはお前も同じだろ。」


 祐也から俺に触るのは、クレープ屋以来だ。あの時は祐也が俺の腕を取って引っ張ってったから、あの時とは逆なんだな。
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